アクセスが少ないサイトを担当していると、「データが貯まるまで、改善は待つしかないのでは」と考えたくなります。月に数件の問い合わせでは、増えても減っても傾向が掴めない。これは正しい感覚です。
ですが、アンケートやユーザーテストなど、アクセス数が少なくてもユーザーがどこでつまずいているかが分かる方法もあります。この記事では、数字の代わりに使える手がかりを社内から集めて改善活動をする方法を説明します。

どの程度の数字があれば判断できるのか?
100回の訪問から問い合わせが1件なら率は1%、2件なら2%です。率だけを見れば2倍ですが、違いは1件。これでページの改善が成功したとは判断できません。では、どのくらいの数があれば判断できるのか。統計の目安で確かめてみます。
問い合わせの件数は、何もしなくても揺れる
一定の期間に起きる件数は、ポアソン分布という確率の分布で考えられます。平均がλ件のとき、件数のばらつき(標準偏差)は√λ件です(NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods「Poisson Distribution」)。
例えば月平均4件なら、ばらつきは√4=2件。何も変えていなくても、2件の月も6件の月も普通に起こります。「先月は2件、今月は5件」という変化だけでは、改善の効果とは言えないわけです。月平均25件なら揺れは5件で、20〜30件の範囲が普段どおりです。件数が多いほど、平均に対する揺れの割合は小さくなります。
A/Bテストに必要な訪問数の目安
2つの案を比べて差を確かめるなら、必要な訪問数を先に決めておきます。よく使われる目安の式は次のとおりです(Evan Miller「How Not To Run an A/B Test」)。
1つの案に必要な訪問数 = 16 × p ×(1 − p)÷ δ²(pは今の問い合わせ率、δは見つけたい差)
| 今の問い合わせ率 | 見つけたい差 | 1案に必要な訪問数 | 2案の合計 |
|---|---|---|---|
| 1% | 1%から2%へ(1ポイント) | 約1,600 | 約3,200 |
| 1% | 1%から1.2%へ(0.2ポイント) | 約4万 | 約8万 |
サービスのページへの訪問が月500回なら、前者でも半年以上、後者は10年以上かかる計算です。問い合わせ率が倍になるほどの大きな変化でなければ、アクセスの少ないサイトでA/Bテストの勝ち負けを決めるのは現実的ではありません。
途中で結果を見て、差が出た時点で止めるのも避けます。同じ解説では、必要な数を先に決めずに途中で判断すると、実際には差がなくても「差がある」と見えやすくなると指摘しています。
数字で判断できないなら、別の方法で改善点を探す
月に数件の問い合わせでは、件数の増減で改善の成否を決めるのは危険です。だからこそ、次から紹介する数字以外の手がかりを使います。
数字の代わりになる手がかりは、社内にすでにある
アクセス解析が語らないことは、営業や受付の記録が語っています。新しい調査を始める前に、すでに社内にある情報を集めます。
| 手がかり | どこにあるか | 分かること | 扱いの注意 |
|---|---|---|---|
| 営業で繰り返し聞かれる質問 | 商談メモ、営業担当者の記憶 | ページで答えられていない疑問 | 1人の質問を全員の疑問にしない |
| 失注・保留の理由 | 商談記録、見送りの連絡 | 比較で不利になった条件 | 相手の言葉と社内の推測を分ける |
| 問い合わせの書き方 | フォームの自由記述 | 読者が使う言葉、誤解している点 | 個人情報は転記せず、内容を一般化する |
| 相談前に見た情報 | 初回相談での聞き取り | サイトが比較資料として読まれたか | 聞き取り自体を相手の負担にしない |
| ページ上の迷い | 操作の観察 | 情報の見つけにくさ | 少人数の結果を割合として扱わない |
| 迷った点や決め手 | 問い合わせ時や商談後のアンケート | 比較した点、決め手になった情報 | 答えを誘導する設問にしない |
これらは、今日から集められるのではないでしょうか。電話や紹介が主な窓口なら、初回の相談で「事前にどの情報をご覧になりましたか」と一言聞くだけでも、フォームの件数に表れないサイトの役割が見えてきます。
集めた質問をページの原稿へ変える方法は、営業では伝わるのに、ホームページでは伝わらない。サービス説明を見直す方法で詳しく扱っています。ここでは、集めた手がかりを改善の順番にどう使うかに絞ります。
契約した人だけでなく、検討を止めた人の事情を探す
既存顧客の声は有用ですが、契約に至った人だけに聞くと、ページで迷って離れた人の事情は分かりません。失注・保留の理由が記録されているなら、価格、時期、対応範囲、社内事情に分けて見ます。
このとき、「予算が合わないと言われた」と「たぶん高いと思われた」は別の欄に書きます。前者は相手から確認できた言葉、後者は営業担当者の推測です。推測は次の商談で確かめる仮説としては使えても、改善の根拠として数えるには弱いままです。
記録には、いつ・どの段階で出たかを添える
質問文だけを並べると、単なる思いつきと実際に起きた疑問の区別がつきません。対象のサービス、相談前か商談中か、営業が実際にどう答えたかを添えます。返答まで残しておけば、それがそのままページに載せる説明の候補になります。
答えが案件ごとの条件に左右されるなら、一律の回答をページに書かず、条件を確認する手順を説明します。
ページを見てもらい、迷う箇所を観察する
社内にない手がかりは、ページを実際に使ってもらって集めます。社内の人だけで確かめると、既に知っている情報で不足を補ってしまうため、可能なら想定顧客に近い協力者にも頼みます。少人数の観察は、全体の割合を推定する調査ではありません。つまずきの候補を見つける方法です。
場所を教えず、目的だけを渡す
「上部メニューの料金を押してください」と頼めば、料金の情報を自力で見つけられるかは分かりません。「予算を検討するために、費用に関する情報を探してください」と目的だけを渡し、最初にどこを見るか、どのリンクの文言に反応するかを観察します。
相手が困っていても、すぐに操作方法を教えないこと。どこで止まったかを確認してから、何を探しているかを尋ねます。長く困らせる必要はありませんが、案内があって初めてできた操作と、自力でできた操作は分けて残してください。
見た行動と、その解釈を分けて書く
「費用の見出しを開いた後、トップに戻った」は観察した行動です。「料金が高いと思って離れた」は、本人の説明がなければ推測にすぎません。戻った理由が情報不足なのか、読み終えたからなのかを本人に確かめるだけで、的外れな改善案を1つ減らせます。
対応地域を自力で見つけられなかった場面なら、例えば次のように記録します。
| 記録する項目 | この仮例で残す内容 |
|---|---|
| 観察した事実 | 対応地域を探したが、自力では見つけられなかった |
| 確認した条件 | 使用した端末、対象ページ、依頼した操作 |
| 仮説 | 掲載位置や見出しから、必要な説明を予測しにくい |
| 変更候補 | 利用条件の近くに対応地域を示す |
| 確認方法 | 別の人が同じ情報を自力で見つけられるかを見る |
手がかりを、直す・補う・待つに振り分ける
集めた手がかりは目的の行動を妨げているか、根拠がいくつ重なっているかで優先度をつけて扱っていきます。
| 分類 | 具体例 | 進め方 |
|---|---|---|
| すぐ直す | 送信できない、リンク切れ、掲載情報が事実と違う | 件数を待たずに修正し、修正日を記録する |
| 補って様子を見る | 営業でも繰り返し聞かれ、ページでも見つけにくく、観察でも迷いが出た説明 | 対象の説明を絞って補い、何で確かめるかを決めておく |
| 保留する | 1人の好みや、社内の推測だけに基づく案 | 次に同じ指摘が出たら再検討する条件を残す |
| 数字で確かめる | 見出しの訴求や、ボタンの文言の優劣 | 判断できる件数が貯まるまで、比較を急がない |
送信できない、リンク切れ、掲載情報が事実と違うといった明らかなエラーはクレームや不利益につながるので迅速に対応をします。
営業サイドやユーザーから分かりづらさを指摘された箇所は、客観的に評価をして対応方針を判断します。
変えたら、何で確かめるかを先に決める
仮説ができたら、改善する箇所を絞ります。複数箇所を改修してしまうと、どの改修が良かったのか(悪かったのか)を特定することができなくなってしまいます。業務上まとめて変える必要がある場合は、その範囲を記録しておきます。
変更の前に書いておくのは、次の3つです。
- 何が問題だと考えたか(どの手がかりから)
- 何を変えたか(変更前の画面と変更日)
- 何が確認できたら役立ったと判断するか
3つ目は、確認に必要な材料と期間で選びます。「対象規模を書き足したら、初見の人が自社で依頼できるかを自分で判断できる」は、数人に見てもらえば確かめられます。「問い合わせ件数が増える」は、アクセスが少ないサイトでは長い期間が要ります。前者を確認できても、後者まで証明したことにはなりません。報告のときも、この2つは分けて書きます。
フォームの説明を追加するなら、送信の邪魔にならないこと、説明と実際の受付条件が一致することを先に点検します。変更で新しい混乱が生じたら、件数を待たずに戻す判断も必要です。
「効果がない」と「まだ分からない」を分ける
変更から時間がたっても件数が動かないとき、それを「効果がない」と記録すると、正しかった修正まで取り消すことになりかねません。件数で判断できる材料が足りないなら、それは「効果がない」ではなく「まだ分からない」状態です。そのうえで、説明を理解できたか、目的のページに到達できたか、営業の補足が減ったかなど、確認できた範囲で評価します。
手がかりを集めても直す箇所が見当たらない場合は、問題がサイトの外にあるかもしれません。
- ページの説明に大きな問題がなく、想定する顧客の訪問そのものがほとんどない。この場合は、営業資料から案内するURL、紹介時に渡す情報、検索で調べられる内容との接点など、読んでほしい人が訪れる経路を検討します。
- 対象の顧客は訪れて問い合わせもあるが、依頼の条件が合わない。この場合は伝え方だけの問題とは限らず、提供範囲や予算、検討期間が相手と合っているかを営業側で確かめます。
ページの修正を繰り返しても進まないときほど、Webサイトで解決できる問題かの切り分けも行いましょう。
まとめ|少ないデータは、別の手がかりで補う
アクセスが少ないサイトでは、率の上下で改善の成否を言い切れません。それでも、営業への質問、失注の理由、操作の観察を重ねれば、読者がつまずく場所は見つかります。
手がかりは「すぐ直す」「補って様子を見る」「保留する」「数字で確かめる」に振り分け、複数の材料が同じ場所を指すものから着手してください。まずは営業担当者に最近聞かれた質問を3つ挙げてもらい、その答えがサイトに載っているかを確かめるところから始められます。
データが少なく、改善の判断に迷っている方へ
現在のサイトや顧客からの質問を手がかりに、確認すべきことと改善候補を整理します。
